おなかのヘルニア外来
【診療日】
毎週水曜日 9:00-11:30
【担当医師】
大谷 裕
日本ヘルニア学会会員 学会評議員
日本腹腔鏡下ヘルニア手術手技研究会会員
中四国ヘルニア手術手技研究会世話人
日本内視鏡外科学会技術認定医
ヘルニアについて
足の付け根や下腹部は一番腹圧がかかりやすい場所です。鼠経(そけい)ヘルニアは、加齢とともに足の付け根(鼠経部)や下腹部の筋肉が弱くなることで、腸管や内臓脂肪などがおなかの中から皮膚のすぐ近くや陰嚢にまで脱出してくる病期です。男性では50歳以降に、女性では40歳代以降に発症し、その約9割は男性に発症するとされています。近年急速に高齢化が進み、鼠経ヘルニアの患者さんはだんだん増加すると考えられています。
治療(手術)
鼠径ヘルニアの治療(=手術)は多くの病院で行われていますが、その多くは経験の少ない若手外科医が手術手技を学ぶために、手術の「登竜門」として行われていることが少なく無く、簡単な手術であると認知されがちですが、医師の経験と技術によって治療成績(術後合併症や再発率)が大きく異なり、大変専門性の高い疾患です。
当院のヘルニア外来では、鼠経ヘルニアのみならず、腹部に発生する様々なヘルニア(大腿ヘルニア、閉鎖孔ヘルニア、臍ヘルニア、腹壁ヘルニアなど)の診療に特化した外科医が診察から手術まで一貫して行い、正確な診断、術後合併症や再発の少ないヘルニア診療を目指して取り組んでいます。
症状
鼠径ヘルニアの症状ですが、鼠径部にやわらかい小さな膨らみとして触れることができ、立った状態や咳をした時などにより膨らみ、横になると速やかに膨らみがなくなります。
その膨らみが自然に治る事は無く、時間が経つとともに次第に大きくなり、10年以内に約7割の方が膨らみ以外の症状(痛み、違和感、腸が飛び出したまま戻らなくなってしまう(嵌頓といいます)状態など)を自覚するようになるとの報告もあります。
時には緊急手術が必要な状況になってしまうこともありますので、鼠経ヘルニアと診断した方には、できるだけ早い段階での手術をお勧めしています。
鼠経ヘルニアは悪性の病気ではありませんので、手術のタイミングは、患者さんの生活スタイルや治療中の各種疾患などを考慮して決定しています。
検査と診断
鼠経ヘルニアでは、「いつ頃から」「どのような症状が」「どのようなタイミングで起こるのか」を聞き取る事がとても重要だと考えています。
診断をより確かにするために、補助的に超音波検査やCT検査などを行うこともあります。各種検査によりヘルニアの正確な診断(ヘルニアの場所、大きさなど)を行い、手術方法を決定しています。
当院で行っている手術
鼠経ヘルニアは、自然に治る事はありません。ちまたには鼠経ヘルニアを治す体操、ヘルニアバンドという体表から圧迫するベルトなど、いろいろな治療と称した方法や商品がありますが、これらは治療では無く、状況によっては症状を悪化させる場合があり勧められません。治療のためには手術が必要です。
鼠経ヘルニアは、下腹部の筋肉が弱くなってしまうことによって発症する病気です。
そのため、鼠経ヘルニアの治療は、その弱くなってしまった筋肉および筋肉の隙間を、人工膜(メッシュと呼んでいます)で補強、修復するのが手術の肝になります。
手術の方法は大きく分けて以下の2通りあります。
(1) 鼠径部切開前方到達法
鼠径部切開法は、鼠径部に4~5cmほど切開して行う手術方法です。以前は主流の手術方法でしたが、現在は約3割程度の方に施行されています。
局所麻酔や腰椎麻酔下でも施行できるため、何らかの疾患により全身の状態が悪い方にもこの方法で手術を行う事が出来ます。
(2) 腹腔鏡下手術
全身麻酔下にお腹に小さな穴を数か所開けて、腹腔鏡(専用のカメラ)や手術器械を挿入し、モニター画面にお腹の中を映して行う手術です。
この術式のメリットは、各種ヘルニアの診断が正確に行える事、開腹手術と比較して傷が小さいため術後の痛みが少ない傾向にある事、また身体への負担が少なく社会復帰が早い事などが挙げられます。
近年は多くの施設でこの術式が採用されて全ヘルニア手術症例の約7割がこの術式で手術されています。しかし鼠径部切開法に比べ技術の難易度が高いとされ、術式を習熟するには相当数の経験を要します。
誰でも行える手術ではなく、慣れない外科医が行うと手術に関連した合併症や再発が多いとされ、経験と技術を持った外科医が行うべき手術方法です。
担当医紹介
担当医は、外科医の修練を開始して約28年が経過した外科専門医です。
その間の経験した各種ヘルニア手術症例数は1000例を超え、近年では腹腔鏡下手術に力を入れて参りました。そして、自ら執刀するのみならず、後進への知識や技術の伝承にも積極的に取り組んでおります。
当院での勤務を開始して以降は、県内ではどこの施設でも行っていないTEP法を発展、充実させるべく日々研鑽しております。
また手術を行うだけでなく、全国学会でその手術成績を発表したり、経験した症例や手術手技を紙上で発表してきた業績が評価され、全国学会である日本ヘルニア学会の評議員や中四国ヘルニア手術研究会の世話人も務めています(2026年7月には私が当番世話人として第23回中四国ヘルニア手術研究会を開催予定です)。
鼠経ヘルニアに代表される各種ヘルニアに対する外科手術は、一般的には「簡単な手術」、外科の中でも若手が担当する事の多い手術として認知されていますが、正確な診断、経験と技術に裏打ちされた手術手技を要す、専門性の高い、決して「片手間」で行なわれてはならない手術であると考えて診療してきました。
鼠経ヘルニアは珍しい疾患ではありませんが、誰にも相談できずに長年過ごしてきたという方や、間違った情報を元に治癒する疾患として生活して来たために、症状が悪化して難儀な治療を強いられる方などもおられ、受診された患者さんの治療に対する思い、決意を受け止めながら診療にあたっております。
症状が悪化して難儀な治療を強いられる方などもおられ、受診された患者さんの治療に対する思い、決意を受け止めながら診療にあたっております。
私は、ヘルニア外来を受診されたお一人お一人のお気持ちを大切にし、当院ヘルニア外来での診療を進めて参ります。
学会発表(全国学会、ヘルニア関連の発表のみ:2010年~2024年)
- 第11回日本ヘルニア学会学術集会(2013年5月 仙台)
腹腔鏡下結腸切除術と同時に施行した腹腔鏡下ヘルニア根治術の経験 - 第11回日本消化器外科学会大会(2013年10月 東京)
腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術導入後の初期成績について~従来法と比較して~ - 第24回日本内視鏡外科学会総会(2013年11月 福岡)
腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術導入早期治療成績の検討~何が変わったか?~ - 第12回日本ヘルニア学会学術集会(2014年6月 東京)
尿管結石切石術後の側腹部に発症したSpigelヘルニアに対するHybrid手術の経験 - 第115回日本外科学会総会(2015年4月 名古屋)
腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術のpit fall~導入早期から気を付けている事~ - 第13回日本ヘルニア学会学術集会(2015年5月 名古屋)
ビデオシンポジウム:腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術のpit fall - 第70回日本消化器外科学会総会(2015年7月 浜松)
腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP法)施行時の工夫 - 第116回日本外科学会総会(2016年4月 大阪)
大腸癌に対する腹腔鏡下手術の術前・術中に診断された鼠径ヘルニアに対する腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術の検討 - 第14回日本ヘルニア学会学術集会(2017年10月 東京)upside down stomachを伴った食道裂孔ヘルニアに対する腹腔鏡下修復術の経験
- 第78回日本臨床外科学会総会(2017年11月 東京)
腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP法)時に工夫している事 - 第28回日本内視鏡外科学会総会(2017年12月 横浜)
腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP法)の際に使用するmesh挿入時の工夫について - 第117回日本外科学会総会(2018年4月 横浜)
当院で施行された腹壁ヘルニアに対する外科治療成績の検討 - 第15回日本ヘルニア学会総会(2018年6月 東京)
ヘルニア嚢解放を先行する腹腔鏡下腹壁瘢痕ヘルニア修復術(LVHR)の経験 - 第118回日本外科学会総会(2019年4月 東京)
ヘルニア嚢先行アプローチによる腹腔鏡下腹壁ヘルニア修復術 - 第16回日本ヘルニア学会学術集会(2019年6月29日 札幌)
ヘルニア嚢先行アプローチにて良好な術後経過を得た腹腔鏡下ヘルニア修復術の検討 - 第80回日本臨床外科学会総会(2019年11月24日 東京)
Pledget付き非吸収糸を用いた混合型食道裂孔ヘルニア門縫縮の経験 - 第31回日本内視鏡外科学会総会(2019年12月 福岡)
腹腔鏡下鼠経ヘルニア修復術時に導入している二つの工夫について - 第17回日本ヘルニア学会学術集会(2019年5月 四日市)
ヘルニア嚢先行アプローチによる腹壁瘢痕ヘルニア修復術 - 第82回日本臨床外科学会総会(2020年10月 大阪)
症例数に恵まれない施設で腹腔鏡下鼠経ヘルニア修復術を如何に教育するか? - 第19回日本ヘルニア学会学術集会(2021年5月 東京)
当院における鼠経ヘルニア修復術式に対する教育の現状 - 第20回日本ヘルニア学会学術集会(2021年6月 横浜)
大腿部皮下膿瘍を合併した大腿ヘルニア嵌頓の1例 - 第35回日本内視鏡外科学会総会(2021年12月 名古屋)
食道裂孔ヘルニアに対する腹腔鏡下修復術~prosthesisを用いない術式の工夫~ - 第21回日本ヘルニア学会学術集会(2022年6年 横浜)
大腿部皮下膿瘍を合併した大腿ヘルニア嵌頓の1例 - 第22回日本ヘルニア学会学術集会(2024年5月24日 新潟)
胸腔鏡を併用した腹腔鏡下横隔膜ヘルニア根治術の経験
誌上発表(全国誌、ヘルニア関連発表のみ:2003年~2024年)
- 臨床外科 61(8 ), 1135-1138, 2006
上腹部白線ヘルニアの 1 例-composix kugel patch による修復術の経験と術式の工夫- - 日本内視鏡外科学会雑誌 12(4),433-438, 2007
腹腔鏡下胆嚢摘出術後早期に発症したポートサイトヘルニア嵌頓の一例 - 日本臨床外科学会雑誌 69(4),833-837,2008
右鼠径ヘルニアに対する Kugel 法術後 2 年目に発症した絞扼性イレウスの1例 - 日本臨床外科学会雑誌 70(8), 2544-2547, 2009
Direct Kugel patch を用いた待機的手術を行った両側閉鎖孔ヘルニアの1例 - 臨床外科 65(5), 729-733, 2010
Direct kugel Patch を用いて鼠径法で修復した大腿ヘルニア嵌頓の1例 - 臨床外科 68(2) ,225-229,2013
高度肥満者に発症した臍ヘルニアの1例 - 日本臨床外科学会雑誌 80(2),356-361 ,2019
大腸内視鏡検査で発見されたクーゲル®パッチによる結腸穿通の1例 - 日本臨床外科学会雑誌 85(10), 1381-1385,2024 (共著)
胸腔鏡観察を併用し腹腔鏡下修復術を行ったMorgagini孔ヘルニアの1例