センター長挨拶 <病理部門について>

パンフレット用

丸山 理留敬 (島根大学医学部名誉教授)

 徳洲会はがん医療を充実するために2013年より病理部門の整備を開始しました。
2016年には九州(福岡)に病理診断センターを開設し、2018年には大阪(八尾)、東日本(成田富里)に相次いでセンターを設置しています。2020年8月には新たに湘南地区と、中四国では初となる出雲に病理診断センターを設立しました。
  出雲徳洲会病院病理診断研究センター(Tokushukai San-in Pathology Center : T-SAP)には現在常勤病理医3名と検査技師2名が所属しています。
「病理」はよく「料理」と間違われるほど日本での社会的認知度が低く、その業務内容は知られていませんので、少し専門用語が出てきますが以下に業務内容をご紹介いたします。

病理の業務

1.組織診断

(1)生検診断

どのような病気であれ、正しい診断がなければ正しい治療はできません。ことに腫瘍やある種の炎症性疾患では、病変の現場である臓器や組織でどのような変化が起こっているのかを、顕微鏡で確認することが必要です。そのために臨床医は病変の一部を種々の器具を使って採取し、我々のような病理部門に提出します。
病理部門では、提出された検体から検査技師が顕微鏡標本を作製し、病理医がそれを観察し診断を下します。そしてその診断が病変の確定診断になる確率が高いのです。これを生検診断といいます。用いる検体は2mmから2cm程度のものがほとんどです。下図は胃内視鏡検査の際に行われる生検診断の様子です。

消化器科医による胃内視鏡(胃カメラ)

消化器科医による胃内視鏡(胃カメラ)

(2)術中迅速診断

手術が必要な病変すべてにおいて術前の生検診断ができるわけではありません。その際には手術中に特殊な方法を用いて顕微鏡標本を作製し病理診断を行います。また、病変が手術で取り切れているかどうかや、病変の広がりの程度を確認したりするのも術中迅速診断の役割です。これにより、外科医がどのような術式をとるのか、あるいは手術を続行するのか中止するのか判断する際の大きな指標になります。
10-30分で診断を手術室に報告しなければならず、手術が続行されれば後戻りはできませんので非常に責任の重い仕事です。したがって、病理部門では術中迅速診断の際にはどのような仕事よりも優先して全力で取り組んでいます。 下図は術中診断の様子を描いたものです。

術中迅速診断

(3)手術で摘出された臓器を用いた病理学的検討

テレビドラマをご覧になっていると、手術が終われば患者さんの治療はそれで終わる、というような印象を持たれるかしれません。しかし実際には術後の薬物療法や放射線療法が必要な患者さんも多くいらっしゃいます。
そのような術後治療方針決定の参考にするため、病理部門では手術で摘出された臓器を用いていろいろな事を調べますが、ことに大事なのはステージの決定です。ステージ3とか4とかいう言葉がドラマでも出てきますが、どの程度がんが進行しているのかといったことで、正確なステージ決定には病理所見が欠かせません。
下左の図は切除された胃の固定後写真で、右はそこから作成した顕微鏡標本を観察した結果を記載した報告書の1例です。

手術で摘出された臓器を用いた病理学的検討

さらに、近年は消化管の内視鏡治療が盛んに行われており、当院でも内視鏡センターが開設されています。これも内視鏡で切除した検体を用いて詳細に病理学的検討を行い、治療後は経過観察でよいのか、あるいは追加で手術による切除が必要なのかを決定しないといけません。
下左図は内視鏡で切除された5-6cm大の粘膜で、病理ではこれを2-3mm間隔で切ってその割面から組織標本を作製し、どれだけがんが広がっているのか、取り切れているのかどうか、血管やリンパ管にがん細胞が入っていないか等の検討を行います(下右図)。

下図

2.細胞診断

組織診断は病変部の細胞の異常に加えて、組織構造の異常を見ることができます。これに対して細胞診断では組織構造の異常を見ることができず、細胞個々の顕微鏡所見で診断を行います。
細胞がバラバラになった状態(尿、喀痰、胸水など)や、人工的にバラバラにした状態(子宮頚部、子宮体部など)で、細胞を観察します。例として子宮がん検診で行われる子宮頚部細胞診を示します。

細胞診断

上段は子宮頚部内腔面の組織です。左端が正常で、右に行くにしたがい悪性度が増しています。これに対して赤線のように表面を擦過して細胞を採取しますと、下段のように悪性度に応じて所見の異なる細胞が出現します。

–図はRobins and Cotran PATHOLOGIC BASIS of DISEASES, 第9版より–
細胞診断は、まず顕微鏡で見落としがないように、細胞検査士資格を持つ検査技師が全体を詳細に見ます。これをスクリーニングといい、非常に重要な仕事です。そのあと細胞診専門医が最終診断して報告します。ただし、細胞診断は検体採取の際の患者さんへの身体的、経済的負担が少ないため比較的容易に行うことができますが、診断精度が組織診断に比して低いのが難点です。

3.病理解剖

入院中にお亡くなりになった患者さんのご遺体から臓器を取り出し、詳細な病理学的検討を行うことで経過中の疑問点や直接死因を明らかにするというものです。非常に重要な病理の仕事ですが、当院ではまだその準備ができていませんので、出来次第追加でお知らせいたします。
近年では、上で述べたような形態学的病理診断だけでなく、遺伝子変化を調べて行う分子病理診断や、患者さん個々に応じた治療を行うための遺伝子パネル検査が盛んになってきています。そのため病理部門に対する要求が増していますので、当院でも準備をしているところですが、まだその態勢が十分ではありません。これいおいても、環境が整い次第お知らせ記載いたします。

T-SAPの概要

病理診断体制

病理診断医(病理専門医・細胞診専門医)一覧

氏名 所属 勤務形態 備考
丸山 理留敬 出雲徳洲会病院 常勤 宮崎大学卒
島根大学名誉教授
青笹 克之 出雲徳洲会病院 常勤 東北大学卒
医療法人徳洲会病理部門最高顧問
北村 幸郷 出雲徳洲会病院 常勤 鳥取大学卒
医療法人徳洲会 出雲徳洲会病院顧問

病理標本作製および細胞診体制

病理医の監督のもと病理技師3名、細胞検査士2名で質の高い標本作製と細胞診を行っています。

病理診断コンサルテーション

 T-SAPでは、自院の病理専門医でも診断に難渋するケースは、国内で分野別に最高水準のコンサルタントのアドバイスも受けながら診断を進めていきますのでご安心ください。